スズキ、タイ四輪生産から撤退 中国EV攻勢で苦戦

東南アジア > タイレポート
Akihiro Komuro
小室 明大

スズキはタイでの四輪生産から撤退すると発表した。現地子会社での生産を2025年末までに終了し、インドの主力工場で製造した車をタイに輸出して販売する。タイは日本車の牙城とされてきたが、中国勢が低価格のEVで攻勢をかけている。SUBARUが撤退を決めるなど、日本勢の苦境が鮮明になりつつある。

現地子会社のスズキ・モーター・タイランド(SMT)の生産を2025年末までに停止し、SMTはタイでの販売やアフターサービスに注力する。二輪車と船外機を生産するタイスズキモーターは操業を継続する。

スズキはタイでの四輪の現地生産を2012年に始めた。約200億円を投じて工場を建設した。小型車「スイフト」を中心に3車種を生産し、国内だけでなく、東南アジア諸国連合(ASEAN)向けに輸出もしていた。だが、タイへの進出が他の日本車メーカーに比べて後発だったこともあり、現地販売に苦戦していた。スズキはEVを世界で投入できておらず、EV化が進むタイでのシェア回復は困難と判断したもようだ。世界販売の6割近くを占めるインドに経営資源を集中して、シェアの拡大を図る。

出典: 日経

PSR 分析: 東南アジアにおける電動化は、大きなシェアを持つ日本メーカーにとって逆風となる可能性があると過去に何度も指摘してきたが、それが顕在化してきた。スバルもタイのCKD工場を閉鎖すると認めている。中国が非常に早い速度で東南アジアに進出しており、開発も含めたそのアクションスピードは極めて迅速だ。中国の製品のコスト競争力は非常に大きく、日本メーカーは価格面でも非常に厳しい。

だが、欧米でのBEVの見直しが現在されているように、今後東南アジアでも同じような動きが出てきた場合、これまでEVの開発や販売で後れを取っていた日本勢が今後は盛り返す可能性はまだある。市場は非常に流動的であり、今後いつどのように変化するのかしないのか、予測の難易度は向上している。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト

起亜、ハイブリッド車販売2倍へ EV逆風で戦略修正

韓国レポート

韓国現代自動車グループがハイブリッド車で攻勢を掛ける。傘下の起亜は主要9車種でHVモデルを新たに投入し、2028年までに販売台数を80万台と現状の2倍に増やす計画だ。世界的に競争が過熱するEVへの重点投資を一旦見直し、市場動向に柔軟に対応する。

「需要の減速、競争の加速だ」。4月上旬、起亜がソウル市内で開いた経営戦略説明会でCEOは焦りをにじませた。EV市場の失速を認め、2026年としていたEV販売台数100万台突破の目標を2027年に延期した。

同時に打ち出したのはHVの拡大だ。2028年までに世界の主要モデル9車種でHVを発売する。HVの販売台数を2024年の37万2000台(全体の12%)から80万台(19%)に増やす。

2023年の起亜の新車販売台数は301万台。うち韓国国内は2割弱。欧米が販売の5割を占める。HVも国内に加え、欧米市場を中心に販売拡大を目指す。

製造体制も販売戦略の転換に対応する。起亜は国内外の13工場でEVとHV、エンジン車のいずれも製造する「混流生産」を手掛け、製造比率を柔軟に変動させることができる。

さらに、研究開発費を積み増す。2028年までの今後5年間で既存の5カ年(2023〜2027年)計画に比べ5兆ウォン(約5600億円)増やし、38兆ウォンを投資する。HV向けの新しいエンジン開発を進めている。省エネ機能を高め、最大走行可能距離を伸ばすなどする。

韓国自動車モビリティ産業協会によると、2023年の韓国内の新車販売はEVが前年比6%減の11万6000台に落ち込んだ。一方HVは55%増の28万台だった。金利上昇や充電設備の不足でEV消費が伸びず、手ごろで燃費も良いHV人気が高まっている。

参考: 日経

PSR 分析: これまで現代グループに代表される韓国勢はEV一辺倒の戦略でシェアを伸ばしてきたが、市場の変化に対応すべく大きな戦略転換を行う。これまでハイブリッド車は欧州などが中心となって市場から排除しようする動きがあった。その一方で、BEVが持つ弱点を市場が徐々に認知したことでハイブリッドの良さが見直されつつある。特にBEVは中国のEV車の供給過多などが報道されるなど、需要に陰りが見られている。こうした市場の変化に柔軟に対応するという意味で今回の起亜の戦略転換は高評価されるだろう。

ハイブリッド技術はトヨタを筆頭に日本勢が技術的にリードしており、韓国勢が追い付くためには大規模な投資が必須となる。すぐに追いつけるほど小さな差ではないだけに、韓国ブランドが世界市場で存在感を維持拡大していくためには、この方針転換に基づいた迅速なアクションが求められるだろう。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト

東南ア新車販売、マレーシアがタイ抜く 順位変動激しく

東南アジア全体レポート

東南アジアの新車販売台数に順位変動が起きている。2023年はマレーシアがタイを抜き2位に浮上した。フィリピンもベトナムを追い越し4位に付ける。金利上昇によるマイナス影響を、税優遇などで緩和出来たかが各国の明暗を分けた。EVではタイを中心に地域全体で販売増が続いている。

インドネシアやタイなど東南アジア主要6カ国の新車販売台数をまとめた結果、2023年は全体で334万台と前の年に比べ2%減だった。減少は3年ぶり。市場の重荷となったのは金利の上昇だ。東南アジアでは自己資本の少ない顧客が自動車ローンで購入するケースが多く、借入金利の上昇や審査の厳格化が影響した。

逆風下でも販売を拡大したのがマレーシアとフィリピンだ。マレーシアは11%増の79万台と過去最多を更新し、域内2位に初めて浮上した。景気刺激策で国内生産車を対象に売上税の減免措置を実施したことが追い風となった。

2023年の個人消費の伸び率は前年比4.7%と堅調で、市場拡大につながった。シェア首位の国民車メーカー・プロドゥアは17%増。セダン車などが好調だった。同じく国民車メーカーでシェア2位のプロトンも11%増だった。

フィリピンは人口増を追い風に内需が拡大し、20%増の41万台と4位に浮上した。同国の実質国内総生産(GDP)の伸びは23年に5.6%と高く、半導体不足の影響の緩和も販売台数を引き上げた。

出典: 日経

PSR 分析: 東南アジアの自動車市場の変化は著しい。タイとインドネシアが2強だったが、マレーシアがタイを抜いたというこの報道は大きな驚きだ。

シンプルに説明すると、マレーシアは助成金によって販売を伸ばし、タイはローン審査を厳格化したことが販売のブレーキになった、ということだ。特にマレーシアは自国の自動車ブランドを持つことに熱意を持っており、歴史的にも自読の自動車産業を成長させるために積極的である。政策金利の影響が大きく出る市場であるため、今後もしばらくは金利が高止まりすると予測されている中では、タイが販売台数を急速に回復させることは期待しにくい。ベトナムでも同様に金利が販売の足かせになっている。EVはどの国でも徐々に伸びているが、市場全体の停滞の長期化が懸念される。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト

韓国、世界最大規模の半導体製造拠点を建設へ

韓国レポート
Akihiro Komuro
小室 明大

韓国政府はサムスン電子やSKハイニックスが計622兆ウォン(約68兆円)を投じる半導体工業団地計画を発表した。日本や台湾が半導体産業に積極的に投資するなか、世界最大規模の拠点設立でこれに対抗するとともに自国向け供給の安定を図る。

政府が発表した青写真によると、サムスン電子が500兆ウォン、SKハイニックスが122兆ウォン、それぞれ2047年まで投資する計画。既存の21の工場に加え、新たに13の半導体工場と3つの研究施設を建設する。平沢市から龍仁市にまたがる半導体工業団地は、2030年までに毎月770万枚のウエハーの生産能力を備える世界最大規模の製造拠点になる見込みだ。

投資額は、政府が2023年に初めて明らかにした計画と比べ大幅に増加している。国家的責務で民間企業と緊密に連携する韓国政府は、輸出全体の約16%を占める半導体セクターへの支援を強化している。

参考: 東洋経済

PSR 分析: 投資額の規模の大きさに非常に驚いた。韓国政府が半導体を経済発展の軸に据えていることはすでによく知られているが、この計画が実現すれば、世界的に見ても極めて大規模な半導体産業の集積地が韓国に出現することになる。現在、半導体産業は今後大きく伸長していくという見方がほとんどだが、今後世界中で半導体の研究が進み、生産が増えていくことで、価格競争が激化し、期待しているだけの利益を今後も得ることができるのか、という点について私は指摘しておきたい。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト

現代自、EV転換にブレーキ 高級車にハイブリッド投入

韓国レポート

現代自動車が高級車ブランド「ジェネシス」でハイブリッド車を開発していることがわかった。同社は2025年以降に投入するジェネシスはEVとFCVに絞るとしていた。足元でEV市場の成長が鈍化しており、戦略転換を迫られた格好だ。

業界関係者によると、現代自は2025年の発売を想定するジェネシス向けのハイブリッドエンジンや関連システムを開発しているという。主力モデル「GV80」や「GV70」などにハイブリッドモデルを追加する。現代自や起亜のブランドでもHVの品ぞろえを拡充する計画という。EVシフトを強めていては販売低迷に陥るリスクがあると判断し、高級車ブランドでのHV投入を決めた。現代自の2023年のHVの販売は前年比53%増の約38万台だった。

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タイで日本車シェアが急落、EV普及で中国が台頭

タイレポート
Akihiro Komuro
小室 明大

「日本車の牙城」とされてきたタイの新車市場で、日本勢のシェアが急落している。政府の優遇政策でEVが急速に普及し、EVに注力する中国メーカーが台頭してきたためだ。タイは東南アジア最大の自動車生産拠点でもあり、地域全体の市場に影響を及ぼす可能性もある。トヨタ自動車のタイ法人の集計によると、2023年の日本の大手9社のシェアは計77.8%だった。かつては9割のシェアを握っていたが、前年から7.6ポイント低下した。

タイでは、EVを輸入する企業が政府と覚書を結ぶと、1台あたり最大15万バーツ(約60万円)の補助金が支給され、関税も最大で4割引き下げられる。販売価格が安くなるため、中国のEV大手BYDなど10社以上が締結している。

タイ工業連盟によると、タイでは昨年、EVの販売台数が前年比7倍の7万3568台となり、新車市場に占める割合も1.2%から9.5%に急上昇した。政策の効果が表れた形で、BYDが販売台数を98倍となる3万432台に伸ばすなど、5%程度だった中国系のシェアは約11%に達した。

タイ政府の優遇策の最大の狙いは、EVの生産拠点を誘致することだ。覚書を結んだ企業は2024年以降、輸入した台数以上のEVをタイで生産することが義務づけられる。各社が販売を増やすほど生産拠点が整備される仕組みで、BYDや長安汽車などの中国勢が相次いで工場を建設している。

一方、日本勢の動きは限定的だ。ホンダは昨年12月、タイでEVの生産を始めたと発表したが、詳細な生産計画は公表していない。日本勢で唯一、タイ政府と覚書を結んでいるトヨタも昨年末にEVの少量生産に乗り出したが、本格的な量産時期は未定という。 こうした状況に、タイのセター・タウィシン首相は昨年12月の日本メディアのインタビューで、「日本は出遅れている。EVに移行しなければ取り残される」と述べ、各社に対応を強く促した。消極的な日本勢にタイ政府がいらだちを募らせているとみられる。

出典: 読売

PSR 分析: 急進する中国系EVブランドは日本の牙城である東南アジアを切り崩していく。このリスクを私は数年前から指摘してきたが、それが現実になり始めている。部品サプライチェーン、販売ネットワーク、輸出入の手続きの簡素化など、自動車産業の十分な成熟が為されたタイとインドネシアにおけるシェア獲得は、今後伸長が期待できる数少ない市場であることから、極めて重要だ。

だが日本の機械メーカーは伝統的にこうした市場の変化に対する初動は遅い。じっくりと市場を観察し、何が最適かを見極めて、満を持して製品をリリースする。このやり方で過去成功してきたのは事実だ。だが、今回もそのやり方が上手くいくとは限らない。

その一方で、欧州などではBEV一辺倒になることに危機感を抱く人が増えている。今後グローバル市場がどうなっていくのかについてはまだはっきりとは見えておらず、こうした中で東南アジアもまだまだ進むべき方向は定まらない。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト

現代自、中国重慶工場を330億円で売却

韓国レポート

現代自動車が中国・重慶市の完成車工場を売却した。2023年12月に重慶市政府系企業に16億2000万元(約330億円、2.22億ドル)で譲渡した。現代自は販売不振が続く中国事業のリストラを急いで米国や東南アジアに経営資源を集中する。

重慶市が持つ「重慶両江新区魚復工業園建設投資グループ」に売却し、関連会社が同工場をEV生産拠点として活用する。

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ホンダ、量産EV「Honda e」の生産終了へ 販売低迷で

日本レポート

ホンダはHonda eの生産を2024年1月までに終了する。同社にとって量産型では初となるEVだが、年間1,000台の国内販売目標を下回り、売れ行きが低迷していた。今後は2024年春に発売する商用の軽EVなどに注力し、販売車両の電動化比率を高める。

Honda eは2020年に発売した。現在販売中の車両価格は495万円で、航続距離は259キロメートル(WLTCモード)。すでに欧州での販売を終了している。国内でも在庫がなくなり次第、販売を終了するという。

Honda eはもともと台数を稼ぐモデルではなかったが、販売目標を達成できなかった。今後は来年以降に発売する軽EV、N-VAN e:などを皮切りに、車種を拡充していく。

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現代自とアップル、自動運転EVで提携へ

韓国レポート
Akihiro Komuro
小室 明大

韓国の現代自動車と米アップルは自動運転EV分野での提携で正式合意する予定だ。韓国紙コリアITニュースが伝えた。先週、現代自とアップルが2027年に自動運転EVの発表を目指していると別のメディアが報道。これを受け、現代自はアップルと初期段階の協議をしていると発表していた。現代自は10日、コリアITニュースの報道についてコメントを拒否した上で、自動運転EVの開発で様々な企業から協力を念頭とした要請を受けているとする8日の説明を繰り返した。アップルのコメントは現時点で得られていない。

参考: REUTERS

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現代自動車、産油国にEVを売る…市場先取り戦略

韓国レポート

現代自動車が中東のEV市場の開拓に乗り出した。大規模な投資で市場の先取りに乗り出す戦略だ。世界的な二酸化炭素削減の動きを受け、産油国の中東諸国でもEV市場への関心は高い。現地での自動車生産に加え、エコ水素エネルギーなどにも事業を拡大している現代自動車は10月22日、サウジ国富ファンドと半製品組立工場設立のための合弁投資契約を締結。キングアブドラ経済都市に年間5万台を生産できる合弁工場を建設する。

合弁工場は2024年上半期着工、2026年上半期生産開始を目標にEVと普通車の両方を生産する。現代自動車はここを中東や北アフリカ地域の中心生産拠点としたい考えだ。

また、サウジでEVメーカーとしての地位を強固にすれば、周辺中東地域への進出の足掛かりになる。ハーリド・アル・ファーレフ投資相は2030年までにサウジを年産50万台規模のEV製造ハブにするという青写真を明らかにしている。

参考: KOREA WAVE

PSR 分析: サウジアラビアは中東地域におけるEV産業の中心になろうとしている。9月には米国の新興EVメーカーであるLUCIDグループがジッダに初の海外工場を開設したと発表したばかりだ。LUCIDの株式の60%を保有するのはサウジアラビアの政府系ファンドである。テスラもサウジでも製造工業建設について初期段階での協議を行っている。個々で何度も指摘しているように、現代自は中国以外の市場開拓に非常に積極的で、特に米国ジョージア州への投資は大きく、複数の部品サプライヤーとともに進出し、現地生産のサプライチェーンを構築しようとしている。今回のサウジへの投資が実り収穫時期を迎えるにはしばらく時間がかかるかもしれないが、先行投資を期待していることは明らかだ。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト