クボタ、燃料電池トラクター初公開 自動運転化も検討
日本レポート

クボタは3月28日、燃料電池を動力源とするトラクターの試作機を初めて公開した。発売時期は未定だが、無人の自動運転トラクターに燃料電池を搭載することも検討する。クボタはバッテリー充電式の農機も開発しているが、中・大型の農機では水素を使う燃料電池が有効だとみている。脱炭素の流れで日本や欧米など先進国で需要が生まれるとみて、実用化を急ぐ。試作機は60馬力ほどで、キャビン上部にトヨタ自動車の燃料電池車「ミライ」に使われる水素タンクを3本設置した。水素と酸素を反応させて発電し、モーターに電力を供給する。実験ではトラクターに耕運用の作業ユニットを装着して土を耕した。
農機は乗用車に比べ稼働時間が長く、作業によっては大きなパワーが必要だ。クボタは中・小型の農機ではバッテリー充電式でエネルギーを確保できるとみているが、中・大型の農機ではバッテリーが重くなりすぎる可能性があるため、燃料電池が有効だとみる。水素エンジンの活用も含め、「全方位戦略」で農機の脱炭素化を進める。
トラクター上部のタンクに水素を充塡するデモも実施した。10分間で約7.8キログラムの水素を充塡することで、4時間程度の走行が可能になるという。試作機はディーゼルエンジンで動く従来式に比べ、騒音を約3分の1に抑えられる。夜間でも作業できるほか、運転室の振動も少なく、農家の負担軽減につながるとみている。
参考: 日経
PSR 分析: 燃料電池駆動の機械開発は、各業界のリーディングOEMによって進められている。農業機械セグメントにおいてはクボタがいち早く積極的に取り組んでいる。クボタは日本での水素普及を目指す団体「水素バリューチェーン推進協議会」に、トヨタや川崎重工業、神戸製鋼や東芝が名を連ねる25社の理事会員の1社として参画している。
現実的に考えると水素、燃料電池の本格的な普及には課題が多い。機器側が燃料電池を搭載しても、水素を生み出す過程でCO2が発生してしまうのでは実際にCO2削減効果は限られたものになってしまう。現状農機ではディーゼルエンジンがまだまだ主流であり、軽油と同等の調達のしやすさなども当然求められるため、サプライチェーンの構築も不可欠だ。コストもこれ以上の燃料負担を農家に求めるのは酷な話だろう。
こうした課題解決の困難さを考慮すると、燃料電池の本格的な普及にはまだ数十年単位の長い時間を要するだろう。だが、そのための先行投資として、現在行われている開発が後々に極めて有意義なものだと評価されるかどうかは、歴史の回答を待つほかにない。PSR
小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト