
新型コロナウイルスのデルタ株が急拡大する東南アジアで、企業活動の停滞が広がっている。各国政府の規制や感染者急増を受けて、トヨタ自動車やパナソニックなど日系大手が一部工場で生産を停止した。現地での販売減少だけでなく、サプライチェーン(供給網)の寸断で日本での生産にも影響が出ている。「タイの感染拡大は予想より深刻だ。自動車産業は猛烈な影響を受けている」。
トヨタの山下典昭タイ法人社長は厳しい見方を示す。同社は7月20日以降にタイにある全3工場を順次停止した。取引先の工場で集団感染が起こり、部品を調達できなくなったためで、再開時期は未定だ。ホンダもタイの1工場を8月3~5日に停止した。
東南アジアでは6月以降、各国が新型コロナ対策で行動制限を強化した。
タイはバンコクなどの都市封鎖の期限を8月末まで延長した。工場の操業は認められるものの、集団感染が起きた場合は一時的な閉鎖を命じられる。マレーシアはクアラルンプールなどで厳格な経済活動制限を続けており、操業可能な業種や出社人数に制限を設けている。
インドネシアはジャワ島やバリ島などでの行動制限を9日まで延長した。インドネシアは感染者急増により医療体制が逼迫しており、駐在員や家族らを帰国させる動きも広がる。東芝は、駐在員や出張者には在宅勤務などを徹底させ、希望者には帰国を認めている。ベトナムはハノイやホーチミンの外出禁止措置により物流などに支障が出ている。フィリピンは6日からマニラ首都圏で行動・移動制限を強化し、4段階で最も厳しい措置を導入する。
東南アジアで生産する部品は日本にも輸出されており、国内の生産活動にも影響が広がってきた。日系企業は東南アジアへの生産シフトを進めてきた。日本の20年の輸入総額のうち東南アジア諸国連合(ASEAN)は約16%を占める。
トヨタはベトナムからの部品供給の停滞を受け、愛知県内3工場の一時停止を決めた。ホンダもインドネシアからの部品供給の停滞などを理由に、鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)を8月に7日間停止を予定する。
出典: 日経
PSR 分析: これまで欧米と比較して感染をうまく封じ込めてきた東南アジアが現在はデルタ株の猛威の影響を受けている。東南アジア各国に進出している外資系は日本のみならず中韓をはじめ米国など多くあるが、それらの企業の多くが現地でのアクションを絞らざるを得ない状況になりつつある。ミャンマーでのクーデターやタイでの現政権への批判デモ等、地域によっては治安が悪化しているという話も聞く。
特に自動車業界においては半導体不足というもうひとつの問題があり、複合的な要素が絡まって生産が鈍化している。最大の問題はこれがいつまでに沈静化するか、見通しが不可能であることだ。サプライチェーンへの影響は必至であり、すでにトヨタはベトナムからの部品供給が停滞したことで、日本の3か所の工場で一時停止、ホンダもインドネシアからの部品供給停滞で日本の鈴鹿工場を停止する。東南アジアで起きているCOVID-19感染拡大は東南アジアだけの問題ではない。今後はBCPの重要性がさらに高まっていく。PSR
小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト