マレーシアレポート
Akihiro Komuro
小室 明大

タイの首相はマレーシアの国民車メーカー、プロトンがタイでEV工場の建設を検討していることを明らかにした。タイ政府はかねて関連産業の育成に力を入れている。

タイの首相は訪問先のマレーシアの首相との共同記者会見で、「工場誘致の明確なステップを確認し、迅速に進められるよう期待している」と述べ、近く関係者らと詳細を詰める方針を示した。投資額や生産能力などは明らかにしていない。

プロトンはマレーシアの自動車産業を興すために国策として1983年に設立された。現在は中国の民営自動車大手のGeelyから出資を受けて、EVへのシフトを急いでいる。

タイ政府は2024年からの現地生産を条件に、価格が200万バーツ(約55,000ドル)以下のEVに最大15万バーツ(約4,100ドル)の補助金を支給するなど、EV工場の誘致に取り組んでいる。 タイのEV産業では中国メーカーの存在感が大きい。BYDがタイのEV販売台数で3割を占め、東部ラヨーン県にEV工場の建設を計画する。SAIC MotorやGWMも現地生産を予定している。

出典: 日経

PSR 分析: 東南アジアの多くの国では自動車産業を自国の製造業の柱と位置づけ、外資からの投資を募ってきたことは周知の事実だが、そうした投資の多くは日本からのものが多かった。一部の国や地域における日本車のシェアは今でも非常に高い。欧州や米国は位置的にも遠く、現地のサプライチェーンの構築や販売を含めたネットワークを構築するための時間とコストの観点から、一歩引いて観察してきた様相だ。だがそうした市場に中国が進出して積極的な投資を行っていることに対して、懸念を表す意見もある。東南アジアは日本や米国の自由主義国と中国の統制主義のどちらを取るのか、と問われている、というような見方だ。だが、現実はそうしたシンプルなものではない。ベトナムのVINFASTが好例なように、東南アジア各国は自国ブランドに対して強い思いがある。経済発展の象徴となり得るからだ。プロトンは浮き沈みを繰り返しながらも成功し、マレーシアでは一定のシェアを保っている。EVシフトの波にうまく適応できれば、プロトンが東南アジアにおける自動車産業王国であるタイで一定の成功を収める可能性は充分にある。PSR

小室 明大 – 極東及び東南アジア リサーチアナリスト